今では炊飯器のお釜にまで使われている南部鉄器。岩手が誇る伝統工芸品ですが、正しく扱えば一生モノの優れものだということご存知でしたか。
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南部鉄器とは
「南部鉄器」とは岩手県の盛岡市と奥州市水沢地区で生産されている鉄器の総称です。
主に鉄瓶やお茶のお釜、風鈴が有名ですが、それ以外にも、箸置きやフライパン・鍋といった台所用品から、花瓶やフック、香炉や文鎮などインテリアとして使える物まで様々なものがあるんです。
しかし、南部鉄器と総称されていますが、旧南部藩の盛岡市と、旧伊達藩の水沢のそれとでは、その歴史は異なります。
奥州市の鉄器の起源
奥州市の鉄器の歴史は、奥州藤原氏が平泉に栄えた平安時代後期(1090年頃)に始まります。
時の平泉の王、藤原清衡が江州(現在の滋賀県)から鋳物氏を招き寄せ、日用的に使う鍋や釡を作らせたことに始まり、後に中尊寺の梵鐘や寺院の備品などを製造させました。
盛岡市の鉄器の起源
一方、盛岡市の歴史は江戸時代初期の1659年(四代徳川家綱時代)、第28代南部藩主重直公が京都から御釡氏初代小泉仁左衛門を呼び、茶の湯釜を作らせたのが始まりです。
二つのルーツをたどると全く異なることが分かり、水沢は民のためにその生活に必要なものを作り始め、その暮らしを豊かなものにしようとしていたのに対し、盛岡は安泰した豊かな暮らしの中で、「茶」を楽しむために作られた、ということになるのかな・・・。
海外でも人気の南部鉄器「IWACHU」
その南部鉄器が今では日本国内にとどまらず、海外でも大人気なのだそう!
何でも海外では「IWACHU」として知られているらしく、南部鉄器界では若手の「岩鋳」さんに、パリの紅茶専門店からカラフルなものを作ってほしいという依頼がきて、3年かけて着色法を開発し、パリのお店に納めたところ、それがパリっ子に受けたというのです。
他の工房では見ることのないカラフルで愛らしいデザインなものが、岩鋳さんにはそろっているんですよ。
さらには中国でも南部鉄器は大人気なのだそうで、2010年の上海万博のパビリオンに、210kgの南部鉄器が飾られたことで一躍注目を集めることになったようです。
お茶を愛する中国人、伝統の中国茶と伝統の南部鉄器の組み合わせが中国人の心に刺さったんですね。
しかも伝統工芸品である南部鉄器は大量生産ができません。これがコレクション性を高めたというのです。
富裕層の中国人にとって南部鉄器は魅力的なモノに感じられたんでしょうね。
鉄瓶のお湯は美味しくて体にもいい
現在5人に1人が貧血と言われていますが、鉄分が体にいいと言っても摂取するのはなかなか大変。
サプリもあるけど、できれば自然なもので簡単に取れるものがいいですよね。
鉄分には二種類あり、吸収のいいヘム鉄と吸収されにくい非ヘム鉄とがあります。ヘム鉄は鉄原子と有機化合物が有機鉄の一つで、構造は二価鉄という形をとっており、溶けやすくイオン化しやすいのが特徴です。
南部鉄器で沸かしたお湯にはこの二価鉄がたくさん含まれているので、鉄分を簡単に摂取することができるんです。
さらには、鉄瓶で沸かしたお湯はカルキ(塩素)をほぼ除去してくれるので、まろやかな美味しい味に変わるんです。
ただし、ただしですよ、これが重要です。
急須などの内部がホーロー加工されているものは鉄分補給の効果はありません!
手入れが簡単だからとホーロー加工されたものを買ってはダメですよ。(あくまでも鉄分を補給したいならです)
鉄瓶の育て方(使用方法)
南部鉄器には、守らなければいけない使用方法がいくつかあります。
とは言え、どれも面倒なものではありません。素敵な鉄瓶になるよう毎日使い、じっくり育てることが大事です。
1.使い始めはお湯を沸かしては捨てる
まず、お気に入りの鉄瓶を手に入れたら最初にすることが、お湯を沸かしては捨てるという作業。
これを2~3回繰り返します。
濁ったお湯が出てこなくなればOKです。
2.お湯を沸かすときは蓋を少しずらす
鉄瓶の蓋には蒸気穴が開いていないので、沸騰するとお湯が飛び出たり、蓋が動いたりします。
ちなみに、沸騰中の鉄瓶は蓋のつまみも鉉も熱々です。決して素手では触らないで下さい。(IHの場合は大丈夫です。)
3.使用後は必ずお湯を捨て、内部を完全に乾かす
これが鉄瓶にとって一番重要です。
使用後のコンロに乗せ、蓋をはずして置いておくだけで大丈夫です。コンロの余熱と、鉄瓶自体の熱ですぐに乾きます。
鉄瓶に水分を残しておくと内部が錆びてしまいます。鉄瓶は錆びさせないように使うことが大切です。
4.鉄瓶の内部は素手で触らない
使っていくうちに内部が白っぽくなっていきます。これは湯垢がついてきた証拠。これが付くとお湯がおいしくなり、さらに錆び止めにもなります。
もし使っているうちに赤い斑点のような錆びが出てきても、そのまま使い続けてください。
決して洗剤で洗ったり、タワシで擦ってはいけません。
5.ガスコンロの火は直接鉄瓶に当たらないようにする
ガスコンロの火があたると底の方が変色してしまいます。
さらに、ガスコンロの炎には水分が含まれているため錆びてしまいます。使い続けると層になってはがれてきます。
鉄瓶の使い方は火鉢の道具店 鉄瓶通に詳しく載っていますので、参考にして見て下さい。
鉄瓶について知りたいならココ
岩手にはいくつかの工房さんがあります。工房にお邪魔するのはちょっとドキドキしますよね。
そんなときにお勧めの場所を紹介します。
「盛岡手づくり村」
こちらは盛岡市のはずれ、小岩井農場近くの御所湖のほとりにあります。
盛岡の伝統品を見たり買ったり、作ったりすることができます。南部せんべいや盛岡冷麺は自分で作って食べることもできるんですよ。
(どちらもとっても美味しいのでぜひ体験してみてください。)
南部鉄器を作っている工房もいくつか入っているので、見学することができ、もちろん買うこともできます。
私の鉄瓶はコチラの薫山工房さんで買いました。
入場無料
営業時間:8:40~17:00
定休日:12/29~1/3
住所:〒020-0055
岩手県盛岡市繋字尾入野64-102
「岩鋳鐡器館」
こちらは盛岡市の南のほうにあります。
展示ギャラリーや売店を始め、実際の作業工程を見学できるテーマパーク型工場です。
入場無料
営業時間:8:30~17:30
定休日:火曜日 12/31 1/1
住所:〒020-0863
岩手県盛岡市南仙北2丁目23−9
「OIGEN(及源鋳造株式会社)」ファクトリーショップ
奥州市水沢地区にある老舗の及源さん。
直売店の隣に、昭和の佇まいを残した工場があり、スタッフさんの解説を聞きながら各工程を見学することができます。
ただしこちらは要予約です。ご希望の見学日の前日までに電話にて予約して下さい。(月曜日見学希望の場合は金曜日まで)
見学無料・要予約 0197-24-2411
見学可能時間:平日13:30~16:00
住所:〒023-0132
岩手県奥州市水沢区羽田町字堀ノ内 堀ノ内45
我が家の鉄瓶
我が家にも数年前に買ってきた鉄瓶があります。
岩手に帰省した時に、手作り村にある薫山工房さんで買ってきたものです。
コーヒーやお茶を飲むときにいつも使っています。
最初の頃は黒かったのですが、今は少し茶色がかってきました。
昨年帰省した際にもお邪魔し、「お茶っ葉でこすると黒くなるよ」と教えていただいたのですが、これはこれで味があっていいかと思いそのまま使っています。
もう4~5年使っているのかな。
だいぶ湯垢もついていい塩梅です。
小ぶりながらもこれでマグカップ2杯分は沸かせますよ。
重さは1㎏ほどですが、お湯が入ると重くなるので、お茶用に使うならこのくらいがおすすめです。
これから子供たちもどんどん大きくなり、やがて家を出て行くだろうけど、おっとちゃんと二人きりになるそのときまで使い続けていきたい一品です。
鉄瓶を買う際は、できるなら実物を見てその重さを体感し、納得のいくお気に入りのものを見つけ出すことをおすすめします。
大きいと重いし、しまうのも大変ですから。
岩手を訪れた際にはぜひ南部鉄器を見てみてください。